失恋を、した。
あまりにも悲しい恋だった。
もう二度と、こんな思いはしたくないと願うほどに痛い。
胸の痛みは、一生消えないんじゃないかな。
なんとなくだけれど、そう思った。
『見えないもの』とか、『愛』とか、なんとか。
そんなものにすがって生きるのが、馬鹿らしくなった。
私くらいの年頃なら、きっとこの先も恋とか愛とかより取り見取りだろう。
けれど今はそんなものに興味がわかないどころか、ちょっと、嫌気さえもさしてる。
それくらい、好きだった。
あの日、入学式に君と出会ってから、毎日がドキドキして、ふわふわして、ちょっとしたことが幸せだった。
登校するのが楽しみだった。となりの席にならないか、席替えのたびに期待した。学級委員になった君は、とっても魅力的だった。
――卒業式だから。
だから、告白したんだ。
それなのに、な。
ああ、痛い。
「痛いよ……」
ずきずきと心が痛む。
『見えないもの』に価値があるなんて言った人は、何を思ってそんなことを言ったんだろう。
ないものなんて、『ない』って言ってしまった方が楽じゃないか。
恋心なんていう見えない、なんだかよくわからないものだって、『ないもの』にしてしまえばよかったんだ。
だったら、きっと。
こんな思いをしなくてすんだ。
もうそんなものに価値なんてつけたくない。
胸が痛む、だけ、だから。
~♪
携帯電話が震えて、着信音が鳴る。
メッセージアプリを開いてみると、それは私の失恋相手からだった。
「今、ちょっとだけ時間いい?」
私は返信に困った。
既読をつけてしまった以上、無視することはできない。少なくとも、したくない。
なんとなくでいいんだ。
私が思うだけの言葉を、書き込めばいい。
「大丈夫。どうしたの?」
「いや、酷いことしちゃったな、って思って」
「やだ、そんなこと思ってたの?」
「だって、俺、女の子フッちゃうとか初めてだったし」
「そう、だったんだ」
「そうだよ。そんな酷いこと、したくないもん。だから、謝りたいって思って」
「なんで? 何も悪いことしていないよ」
「嫌だ。謝らせて」
「ダメ!」
そこまで打って、私は携帯を放り投げた。
これ以上、傷を広げたくなかったから。
次の日、私は家族の前でにこにこと笑って過ごした。
ちくり、ちくり、と胸は痛むけれど。
君はそんなこと知らないままでいるんだろうな、と思うと、その度に絶望が襲ってきた。
お風呂に入っても、ベッドに入っても、君のことを思う気持ちが消えない。もう、傷つきたくはないのに。
恐る恐る、携帯のメッセージアプリを開く。
どうしても――君を思う気持ちが消えなかったから。
そうしたら、君との部屋に未読の文字がついていて、やっぱり怖くなった。
けれど、『ないもの』にするのが嫌だった。
そっと開いてみる。
「お前のこと、嫌いだなんて嘘なんだ。あのとき……みんな、俺のこと見張っていて。好きだって言ったら馬鹿にされると思って、言えなかった。裏切ったって、思われるのが怖かった。本当にごめん。許して、なんて言えないし、言いたくない。でも、俺も」
そこで、一行区切ってあった。
数分、時間をおいて。
「俺も、好きだよ」
と、書かれていた。
私の瞳から、涙があふれた。どうしてかはわからないけれど、ぼろぼろと、まるで子供のように泣いてしまった。
そうなんだ。私は、ただ、君のとなりにいることだけが望みだったんだ。
傷つきたくはないけれど、それでも、君のとなりにいるのが幸せだったんだ。
それなら、伝えなくちゃ。
「私もね、好きだよ。君のこと」
見えないふりなんて、していちゃいけない。
君のこと、ずっと見ていたから。
それでも見えないものはたくさんあるけれど。
そんなものに価値があるって、どこかのエライ人は言っていたじゃない。
「君が、好きなんだ」
ぼろぼろ、涙が零れる。
あんまりにも涙が零れるから、最後には画面がうまく見えなくなった。
でも、どうしても言いたかったから。
無理やり打った。
――あいしてる。
Produce 残響レコードボカロ制作部
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Lyric 金森璋
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