階段を降り、そのバーへ辿り着いた。
マスターに声をかけ、カウンターへ。ふと横を見ると紳士がなにやらもぐもぐやっている。よくある事だ。
「ののワの16年物を」
と、マスターが話しかけてきた。「うかない顔じゃないか」見透かされていたらしい。
「彼女の事がちょっと分からなくなって。朗らかで天然な彼女、人々を跪かせる彼女、どちらが本当なのか…」
「人は誰しも複数の面があるものさ。全て彼女だよ」
そんなものかもしれない。
目を閉じ思い浮かべる。まっすぐな瞳で「ヴぁい!」と微笑む彼女、まるで仔犬だ。そう思うとなんだか心が軽くなって飛んでいきそうな気がしたから、彼女がくれた首輪を巻いておく事にした。
僕が飛んでしまわないように、踏んでいてください。