おお これは現実には存在しない獣だ。 人々はそれを知らなかったのに 確かにこの獣を ――その歩くさまや たたずまい そのうなじを またその静かなまなざしの光に至るまで――愛していたのだ。
なるほどこれは存在していなかった だが 人々がこれを愛したということから生まれてきたのだ。 一頭の純粋な獣が。人々はいつも空間をあけておいた。
するとその澄明な 取って置かれた空間の中で その獣は軽やかに頭をもたげ もうほとんど 存在する必要もなかった。
人々はそれを穀物ではなく いつもただ存在の可能性だけで養っていた。
そしてその可能性がこの獣に力を与え その額から角が生えたのだ。一本の角が。
そして獣はひとりの少女に白い姿で近寄り―― 銀の鏡の中と 彼女の中に存在し続けた