「曙ちゃん、かならず連れて帰るから」
潮は曙に肩を貸し帰還した。
その足で病院へ直行し曙をベッドへと寝かせるとすぐに処置が始まり医師たちが慌ただしく動き回る。
その後幾ばくか曙が意識を取り戻す様子は無かった。
「クズ司令官、呼んだ?」
「響、第七駆逐隊、着任したよ」
提督の執務室に二人の艦娘がやってきた。
一人は朝潮型駆逐艦十番艦、霞。
そしてもう一人は暁型駆逐艦二番艦、響だ。
「ああ、来てくれたのか、二人共」
提督はその言葉を聞くや否や立ち上がり予め用意してあった椅子に座るよう二人に促した。
「さっそくだが本題に入ろう。俺の采配ミスで朧、漣を失い、今や曙は眠ったまま、彼女を連れて帰還した潮も足を悪くして車椅子生活だ。言い訳する言葉も無い。そこで二人に来てもらった」
霞は不機嫌そうに腕を組んで言った。
「ふん、それで? あたしたちに何をしろって言うの?」
「この鎮守府に着任して以来、俺は彼女達を信頼していたし、彼女達の方でも俺のことを信用してくれていると思っていた。しかし結局本当はどうだったのか、分からなかった」
「…………」
「七駆には辛い思いをさせてしまった。けど、ここで立ち止まる訳にはいかないんだ。二人も新たな戦力として一緒に戦ってほしい」
「大丈夫、司令官。私たちは戦うために来た」
「それだけじゃない」
「何よ?」
「潮の支えになってやってほしい、俺は嫌われただろうからな……」
「……ったく」
霞はそそくさと席を立ち響に声をかける。
「こんなだらしないのほっといてさっさと行くわよ!」
響は静かに頷き提督に礼をして二人は去っていった。
二人が出て行った後提督は大きく溜め息をつく。
「もう、夕暮れか……」
霞と響は潮を連れ夕暮れ時の港を歩いていた。
カモメたちが空に羽ばたいていく。
車椅子を押されながら潮は言う。
「私にもっと力があれば……みんなを守れたのに」
「潮、あんたの戦績見せてもらったわ。曙に負けず劣らず、よくやったじゃない!」
霞が励ますように言うも、潮の顔色は晴れない。
「でも私は……」
「それは相手が悪かっただけよ! だいたい、あのクズが全部悪いんだから!」
響は潮の前に屈み、彼女の手を握る。
「潮、例え仲間を失ったとしても、許される事すら許されなくなった訳じゃない。潮は悪くないんだよ」
「……うん」
俯いた潮は、ぎこちなくはにかむ。
そして思い詰めたように口を開いた。
「私の連装砲ちゃんの事、お願いね……」
それが、戦えなくなった潮の、艦娘としての最後の願いだった。
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