「不良な子孫の出生防止」を掲げた旧優生保護法(1948~96年)に基づき不妊手術を強制されたのは「個人の尊厳」などを保障する憲法に反するとして、東京、宮城、北海道に住むいずれも70代の男女3人が5月17日、国に総額計約8000万円の損害賠償を求めて東京、仙台、札幌の各地裁に提訴した。
3人の弁護団を中心に当事者の救済を目指す各地の弁護士らが5月27日に「全国弁護団」を発足させる予定で、国の責任を問う動きがさらに広がる。 北海道の男性は小島喜久夫さん(76)と名前を明らかにし、宮城の女性と東京の男性はそれぞれ飯塚淳子さん、北三郎さん(75)の名前で活動している。訴状によると、北さんは中学2年だった1957年、入所していた仙台市内の児童自立支援施設(当時は教護院)の職員に連れられ手術され、のちに施設の先輩から不妊目的だと知らされた。旧法は障害のある人たちを手術対象としたが、男性は障害があると診断されたことはなかった。 飯塚さんは16歳の時に診療所で手術され、直後の両親の会話から不妊目的だったと知った。国に被害を訴え続けた一方、手術記録の「不存在」で提訴を諦めていたが、宮城県が今年2月、活動経緯などから当事者と認める方針を打ち出し、提訴を決断した。 小島さんは19歳だった60年ごろ家族との関係悪化で生活が荒れ、札幌市の精神科病院に強制入院させられた。診察なしに当時の病名「精神分裂病」と診断され、同意なしに不妊手術させられた。今年2月に妻に告白、名乗り出ることも決めた。国側は今年3月に開かれた宮城の60代女性の初弁論で請求の棄却を求めており、今回も同様の主張をする見通し。一方、今年3月発足の超党派の国会議員連盟が来年の通常国会で救済法案の提出を目指すなど、法廷外では救済に向けた動きが進む異例の展開が続く。
毎日新聞2018年5月17日 大阪夕刊
https://mainichi.jp/articles/20180517/ddf/001/040/002000c