ゆかりが家にやって来るらしい。
それが本当ならば、ここ数年で最も大きなニュース。彼女に、自分だけに向けて、直接声をかけてもらえる。そう考えると、年甲斐もなく胸が躍った。
ならば、私は万難を排して彼女を迎えなければならない。
組んだばかりの新PCの前に陣取り、相応しい環境を整えるべくマウスを掴んだ私は、そこでふと、思い至った。
そうだ、超一流の声役者たる彼女を迎えるというのに、私はまだ何も素材となるべき動画を用意していない。何たる不手際。それこそが最も大事な準備だというのに。
私は、慌てて革ジャンとジーンズを纏い、メットとカメラを掴み駐車場へと向かった。彼女がやって来るまでのリミットは数時間。間に合うか。いいや、間に合わせるのだ。私と、14Rならば十分に勝算はあった。
キーを捻り、セルを回す。心地よい重低音。生きていることを実感させてくれる、命の鼓動だ。この音を聞くためにこそ、私は今日も生きている。
「今日も頼むぞ」
私は相棒に声をかけ、跨るとギアをローに叩き込む。
ガタンという大きな変速ショック。他メーカーではありえないバカでかい音。
だが、これがいい。こうでなくてはならない。この音を愛しいと思えないのならばカワサキに乗る資格はない。決して、言い過ぎではないはずだった。
アクセルをゆっくりと開け、私は走り出す。全身に秋の風を感じながら私は呟いた。
「待っていてくれ、ゆかり―――。最高のプレゼントを、君に届けて見せる」
※お借りした立ち絵
ふらすこ様 im6850576
※動画の尺に対してゆかりさんの喋りが少なすぎるのはご容赦。
※動画中では触れませんでしたがカメラマウントはショックアブソーバーを外しています。