某日、かのせなさんが半所属するプロダクション社長が来訪した。
勝利宣言に来たのかと思えばさにあらず。ラボの存在が彼女を元気づけてくれたと礼を言われてしまった。
元気も何も元々かのせなさんははっちゃけの化身ではないか。
今年に入って既に研究所の窓ガラスは三枚割られている。いずれも彼女の特大ホームランによるものだ。すっかり街のガラス屋さんと馴染みになってしまった。こんなご縁はちょっと嫌。
社長は笑っている。いや失礼、と詫びつつも痛快エピソードに目を細めている。
重ねて感謝をと。ここに連れてきて正解だったとも。
今日はこれを見せに来た、と一枚のディスクを渡された。
ここに来る前、外部持ち出し厳禁の条件付きで撮影したPVだという。たった今ここで流出しているじゃないかとは思ったが、社長の顔がいつになく真剣なので黙って受け取った。
驚いた。画面にいたのは愁いを帯びた少女だった。
というか誰だこれ、いやかのせなさんには違いないのだが誰だこれ。
「知らなかっただろう、彼女はやろうと思えばこんな顔もできる。これほどまでのポテンシャルを秘めている」
自慢げに語る社長はしかし、どことなくさみしそうで。
なので尋ねた。いつも当人がはぐらかしていることを聞いた。
かのせなさんの所属は芸能プロダクション。これだけの表現力。
なのにどうして彼女をアイドルにしないのか。
社長は画面を見たまま、「私だって万能ではない。できないこともあるんだよ」と。
そんな顔をされては何も言えない。
二人で切なげな、それでいて素敵に輝く過去のかのせなさんを見守り続けた。
それにしても同じかのせなさんとは思えない。
いつもわーきゃー言って、小学生男子な自分を笑いの種にして、だからこそかわいいと言われ慣れてなくて、たまにこっそり皆の「かわいい」コメント見返して「うにゃへへへー」と照れ笑いしてるあのかのせなさんが
「ちょっと待って最後の気になるすごく見たい」
了解いたした。では後で隠し撮りしたうにゃへへへーをお見せしますよ社長。