以前、上京して間もない頃、熱を出して寝込んだ。
ただの風邪だと思っていたけど、どうやら何かが違う。
起き上がれない。ちょっとでも動くと体中が痛い……
二日もろくに飲まず食わずで朦朧とした意識の中、玄関からガチャガチャと音が聞こえた。
カギを開けて誰かが入ってきたようだ。
母親だった。
「あなた熱あるのね?どうしたの?」
「風邪ひいたみたい」
「食べてないのね?」
「うん」
「病院に行きましょう」
「でも……どうして?」
そうだ、何の前触れも連絡も無く母親が来るなんて……?
ああ、でも電話が鳴っていて取れないときもあったしな……
なんていうことを考えていたら、
「あのね……」
母は何だか寂しそうな顔をしていた。
その言葉の後を聞かないうちに、私はまた意識が混濁してきてしまって、最期までしっかりと聞きとれなかった。次に気がついた時は病院のベッドの上だった……
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