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sm37997001 mylist/68640421 次
sm38046907琴葉姉妹はミーズ城の外れで見知った顔を見つけた。森の近くに作られたベンチとテーブルが置かれただけの簡素な休憩所だ。人目に付かず静かで安らぐ場所だった。「ユリア、こんなとこで何しとるん?」銀髪の少女ユリアはゆっくりと顔を上げた。見れば手元には食べかけのパンが握られている。「わかった、昼飯が足りんかったからここで隠れて食ってるんやな!」「ち、違いますッ!」慌てて手を振った拍子に周りに集まっていた小鳥が驚いて一斉に飛びだった。それを見ながら茜はユリアもちゃんと大きい声も出せるんやなとどうでもいいことを思った。どうやら野鳥にえさを与えていたらしい。「ごめんね、邪魔しちゃったみたい」飛んで行った鳥たちを見送りながら葵が言った。ユリアは小さく頷いて返事をした。「はい、いえ……以前にもこうしていたような気がして」「鳥好きなんか。なんかこうしてみると貴族の令嬢にしか見えんよな」成り行きで同行することになった記憶喪失の少女。戦闘訓練など受けていない彼女が戦えているのは持ち前の高い魔力のおかげだ。光の魔道書であればどんなものでもまるで知っていたように扱うことができる。「ユリアはなんか昔のこと思い出せたか?」茜がそう聞くとユリアは考え込むようにうつむいた。「……私にはやらなくてはいけないことがあるはずなんです。でもそれが何なのかが思い出せません。思い出したいのに思い出したくない……」「無理せんでええんやで。時間はたっぷりあるんやから。思い出す時が来たら勝手に思い出すやろ。夏休みの宿題みたいに」考え込んでしまった彼女の背中をそっと撫でてやりながら茜は空を見上げた。解放軍は順調に大きくなりトラキアを破ったら次は帝国本国との戦いになるだろう。バーハラで倒れていたということは帝国の貴族の令嬢という可能性が高い。何より光の魔法を扱える銀髪という特徴には大きな心当たりがある。一体帝国内部では何が起こっているのだろうか。そして危惧していることが当たっているとしたら――ユリアは記憶を取り戻した時どちら側に付くのだろうか。
という場面はないと思うので忘れて下さい。