僕の生まれ育ったものすごいド田舎の村は、もうずいぶん前に市町村統合で、ただの一区域になってしまったが、これは、まだ僕の故郷が村だった頃の話。僕が小学六年生の夏だった……
その日は友達のマサオと二人で、村の上に広がる山の探険に行った。
マサオは村長(ソンチョ)の孫なんだが、とっても面白いやつで、『立ち入り禁止』の立て札を見ると、真っ先に「後で入ってみようぜ」と言うようなやつだった。
僕はそんなマサオが大好きで、いつもマサオの後ろを追いかけていた。
「コンクリート道路は何もない。けもの道って知ってるか?クマとかタヌキとか、危険な動物が通る道のことだ。今日はその道を登ろうぜ」
使い古してかかとに穴が開いた靴が歩きづらいらしく、マサオは山に着くなり裸足になった。
もちろん、靴下なんか履いてない。
「マサオ、裸足で登るんか?あぶないぞ、怪我するぞ」
「お前はいつもそうだ。お前は車も通ってないのに赤信号を守るんか。じいちゃんが、そんなんだと危機管理能力が育たんって言ってたぞ」
「ききかんり……なんて?」
「僕もよう知らん。大人の言葉じゃ」
マサオは大人が使う言葉をよく知っていた。
爺さんのそばでいろんな言葉を覚えるが、一回しか聞いたことが無い言葉を使いたがるもんだから、その意味までは解っていなかったが。
「じゃあ、僕も裸足になる」
「それがいい。けものが作った道を通るんだからな。靴を履いてたら逆に怪我するかもしれんぞ」
マサオがそう言うならそうかもしれん。
僕は靴下を履いていたが、親指には穴があいていたので、それをさらに破り腕を通して、今で言うアームウォーマーみたいな感じにした。
「どうだマサオ、完全装備だ」
「いいな~それかっこいいな。今度僕もやってみようかな」
「怒られるけどな」
マサオと僕は笑いながら、コンクリート道路から脇に抜ける山道へと入った……
★文字起こし:
https://kowaiohanasi.net/maturi-itizoku