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sm38046907 mylist/68640421 次
sm38760341琴葉茜は剣に付いた血のりを振り払った。振り返れば同じように葵が顔を上げるところだった。「怪我はないか葵」「かすり傷だから平気。ライブの杖もあるからね」葵はそう言って腰から下げていた杖を使おうとして手を止めた。「自分には使えないんだったった。てへ」「ほれ使ってやるから貸してな」茜が葵に向けて杖を振ると淡い光が葵を包み込み傷を癒す。「こうやってみんなも道具の貸し借りできれば楽なのにな」「不思議だよね。変なしきたり」「借りパクが起こらんのはええのかもしれんけど……」トラキアでの決戦からグランベルへ取って返した解放軍はミレトスへ進軍した。トラキア半島と接続する都市ペルルークを帝国の支配から解放するために戦い、大方は片付けたはずだ。だが取り戻そうとする帝国の増援と市街地に残った敵勢力の掃討戦は一筋縄ではいかなかった。帝国の物量作戦に本隊をぶつけざるを得ず、暗黒教団は降伏することを知らない。市民に扮したダークマージの不意打ちにはほとほと手を焼かされた。今もこうして奇襲を返り討ちにしたところだ。敵味方がはっきりと分かれる野戦よりも市街戦のほうがずっと気が滅入るものだ。あやしいやつは斬ってみるというわけにもいかない。茜はため息をついた。「……ミレトスは自由で何でもあるとこやって聞いてたんやけどな」かつてシグルドとともにいた頃に聞いた話だ。ミレトスの商人は世界中の品を扱う。きっと見たこともない面白いものもあるだろう、と。異世界の珍品なんて興味を惹かれないわけがなかった。「来ることができたらゆっくり見て回ろうって約束したのにね」葵の表情も暗い。この戦いが終わればまた活気が戻るのだろうか。頭を振って茜は剣をしまうと見回りを再開した。
中古屋を通さない闇取引をする琴葉姉妹はいないと思うので忘れてください。