たくさんの引退を見た。たくさんのさよならをみた。何十万のファンは、推しを長いこと見ていたにもかかわらず、いなくなるまで推しが苦しんでいたことに気が付かない。人の消滅に対して、楽しみが一つ減ったという感想しか出てこない。成人式を見ていれば予想がつくだろう。これより先、ファンを騙り彼らを支えるのはあいつらだ。Vtuberとして一人前になる瞬間があるとしたら、ファンが肝心なときに役に立たないと身を持って知るときだろう。
何故彼は黒で確定してしまったのか。それぞれの立場におけるメリットを考えてみよう。
まず、彼と敵対する立場の場合、当然、彼が白であっては困る。しかも、ただの黒ではなく、歴史上類を見ない黒さでなければならない。子供をいじめても箔が付かない。倒す相手が巨大であるほど箔が付くというものだ。また、彼が潰した祖国も強大でなければならない。祖国が純粋な白であるほど、彼の存在はより脅威となり、滅ぼすに値するという大義名分が手に入るのだ。
次に、彼の味方の立場の場合、本来なら彼が白でなければ困る。しかし、彼を推していたという事実があると、他の政治家の支援者と合流できないのだ。なぜなら世間一般的には彼が黒であり、犯罪者の片棒を担いでいることになるから。だから、我々は彼に騙されていたという免罪符が必要となる。よって、彼の味方にとっても彼が黒であったほうが都合がいいのだ。
そして、政治家を雇う立場にとっても、彼が黒であるほうが有益である。どこの世界でも人材流出は深刻な問題である。組織を抜けて成功する人間がいると、有能な人材が真似をする恐れがある。だから、個人勢になって大失敗する例は必要なのである。また、政治家のための教育としても、彼が黒であると都合がいい。政治家としてやっていけないことは色々ある。それをすべて列挙するのは難しいし、自由な行動ができなくなってします。彼が黒であれば、ただ一言、「彼のようになるな」というだけでだいたいの教育は完了する。
政治家たちは彼については触れないようにする。一方で、彼に滅ぼされた祖国を復興した彼の同士たちを尊敬している。だから、何も知らない国民と事情を知る政治家で祖国の人に対する評価が大きく違うのだ。
噂とは世間一般的に共通するネガティブな願望である。「こうなってしまえ」「こうでないと都合が悪い」があまりに大きいので、彼は黒なのである。
あれから長い時間が経ったが、彼は全盛期から停滞を続けている。だからあのときのように黙り込み、あのときのように支持者に助けを求めたのだ。今の彼は個人である。義務として助けてくれる組織はもうない。彼は優れた能力があるゆえに捨てられた経験がなかった。この機会に一人前になってほしいところである。