出ない。指からチーズが出ない。かつてのように…
チーズ星人にとって12年のブランクはそれほどまでに重く、残酷なものだった。
チーズも出せないのに何がチーズ星人か。
悲嘆に暮れども目は漆黒にして虚無。涙の一滴たりとも流れはしない。
絶望の淵で、壁にもたれかかりずり落ちたとき、はらはらと宙を舞うものがあった。
パウダーだ。壁との摩擦で生まれたチーズパウダーだ。
自己犠牲の精神−それこそが己に欠けていたことを悟ったチーズ星人たちは、
研削工具を手に頭を削った。頭がなくなるまで削った。
一方その頃、庄司智春は鍛え抜かれた肉体を躍動させて、
カップヌードル欧風チーズカレーを混ぜていた。
麺をすすった刹那、チーズのまろやかな旨みと妻への愛が濃厚に絡み合い、
思考より先に彼は叫び、飛んだ。