「あ、雷」
「ぴぇ…今の、近い…!」
「雨、止まないね〜」
「夕方までに止めばいいけど」
「あれ〜? 円香先輩、そのイチゴ食べないの〜? 食べないなら雛菜が貰うね〜」
「は? ちょっと」
「ん〜、美味し〜い♡」
「雛菜ちゃん! ケーキのイチゴだけ取っちゃダメだよ…!」
「はあ…信じられない」
「樋口、イチゴ好きすぎじゃん」
「こんなに美味しいなら、イチゴもいっぱい乗ってればいいのにね〜」
「で…でもケーキのイチゴは、甘いクリームを沢山食べた後に、口の中が爽やかになるようにあるんじゃないかな…!」
「へ〜?」
「だから沢山は乗ってないし、最後に残しておいた方が、いいと思うな…!」
「へー。小糸ちゃん、グルメだ」
「え、えへへ…」
「ん〜、そっか〜…。雛菜はクリームもイチゴも好きだから、どっちもいっぱい食べたいかな〜」
「あ〜あ。どうして美味しいものって、食べたら無くなっちゃうんだろ〜」
「え…!? そ、それは食べちゃうから…」
「美味しいものも、楽しい事も、ずっとずっと続けばいいのに〜。そしたらずっとずっとしあわせ〜でいられるよね?」
「あ…それは、そうなのかな…?」
「ぴゃ…! また雷…!」
「さっきより近いじゃん。怖」
「…」
「雛菜はこの天気がずっと続いてほしいと思う?」
「え〜?」
「う〜ん。雛菜はやっぱり、いい天気なのがいいな〜」
「どんなに強い雨でも、いつか上る。止まない雨はない。嫌な事も同じ、ずっとは続かない」
「嫌な事にも終わりがあるから、楽しい事にも終わりがあるんじゃない」
「ぴぇ…円香ちゃん、すごい…!」
「知らないけど」
「ふ〜ん…なんか今日の円香先輩、円香先輩じゃないみたい〜」
「…どういう意味?」
「あ〜、もしかしてプロデューサー?」
「あの男は関係ないでしょ、名前出さないで」
「あー、みんな。家までプロデューサーが車で送ってくれるって」
「え…本当!?」
「うん。外に車停めて待ってるから、来てって」
「と…透ちゃん待って…!」
「全く…お節介な男」
「…」
「…そうだよね。いつか、終わっちゃうんだもんね。楽しい時間も」
「雛菜?」
「…あ、何でもないよ〜」
「ふ…二人とも! プロデューサーさん待ってるよ…!」
「大丈夫、すぐ行く」
「…」
「雛菜、行くよ」
「…うん」
「…」
「ほら」
「うん」
「…円香先輩の手、冷たい」
「ほっといて。雛菜の方があったかいだけ」
「…」
「…今日の雛菜こそ、雛菜らしくない」