腹の底を殴りつけるような大歓声が会場に響き渡っている。肌を突き刺す音圧が、純粋な声だけで起きていた。
思わず耳が動いてしまいそうなほどの歓声の中、人の波をかき分けながら進んでいく。
「相変わらず凄い人の数ですわ!」
今日という日を誰もが楽しみにしていた。この賑わいも当然といえば当然だった。
「ここからならよく見えますわ」
会場の盛り上がりを味わいながら自分の席へたどり着いた。最高のポジションで見るために、死に物狂いで確保した特等席だ。
「確かこの中に・・・ああ、ありましたわ!」
席に着いたらすぐさま準備に取り掛かる。カバンから取り出したのは自作のメガホンとタオルだ。
この日のために用意した特別なもの。販売されているグッズでもよかったが、どうしても手作りしたもので応援がしたかったのだ。
はっきりいって出来が良いとは言えない。しかし、丁寧に作られたであろうそれは、どの応援グッズよりも想いが込められているのは間違いなかった。
「これで応援すれば、きっと勝ってくれますわ」
さらに想いを込めるように握りしめる。直接力になれずとも、勝利を願えばきっと力になるはずだ。
「来ましたわ!」
そうこうしているうちに芝の上に続々と選手が集まり始めた。ひときわ色めき立つ歓声。気温以上の熱気が会場を包み込んでいく。
もうすぐ始まる。2連覇の期待に潰れてしまわないか、今更心配になってきた。
いや、きっとやってくれるはずだ。これまでがそうだったように。
メガホンを口に当てる。そのままタオルを頭上に掲げて、誰よりも大きな声で声援を送った。
「かっ飛ばせ―!メジロマックイーンッ!」
春の天皇賞。淀の舞台に大阪のおっちゃんの声が響き渡った。
雑コラドカベンFull→
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