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sm38979197ドズルを制圧した翌日、祝杯を浴びて二日酔いで重たい頭を引きずる琴葉姉妹を出迎えたのはレヴィンだった。ひどい表情の二人を見ても眉一つ動かさずに言った。「必要なエーギルが溜まった」その一言に茜と葵はスッと頭が冷えていくのを感じた。元の世界へ帰る手段ができたのだ。背中でついて来いと語るレヴィンの後ろを歩きながら二人は顔を見合わせるのだった。ドズル城の一室、誰も使っていない客間に陣取ると中央に置かれたテーブルの上に魔道書を乗せる。かつて見たレヴィンが作り上げたという特別なワープの魔法だ。表紙には前にはなかった複雑な魔法陣が浮かび上がり薄く発光している。以前見た時よりも存在感も増しているように感じる。レヴィンがソファーに座ったので二人も同じように対面に座った。「結論から言うとエーギルは溜まったがまだ完成ではない。あと一つ、光と闇の魔力が必要だ」レヴィンはそう切り出した。「光と闇……ナーガとロプトウスの魔力だ。この二つが激突する時に発生する魔力の衝撃をこの中に取り込み発動の口火にする。一度きりのつもりで作ったためこのようなものになったが本来なら空気中の、」
「ちょ、ちょっとまって。詳しい仕様なんて聞いてもわからんからええわ。とにかくナーガとロプトウスがぶつかる必要があるってことなんやな?」茜が一人で話し始めたレヴィンを遮って言った。葵が膝の上で手を握りこむ。
「……ユリアちゃんとユリウス皇子が戦う必要があるということですね」葵が顔を上げるとレヴィンの冷たいまなざしが突き刺さる。「そうだ」葵は唇を噛んだ。元の世界には帰りたい、しかし自分はユリアにユリウスと戦えと言えるだろうか。双子の兄と。もし自分が姉と戦えと言われたらどうだろうか。想像しただけで体が震えてくる。それを感じ取ったのか茜が手を伸ばして葵の手の上に重ねた。たったそれだけで葵はどんなに怖くても進むことができる。レヴィンは目を閉じて嘆息するように言った。「私にもできないことはある。私には人間たちの心は動かせない。だからあとは――」
――お前たち次第だ。
ヨハルヴァに絡み酒する琴葉姉妹はいなかったと思うので忘れてください。