前
sm38979197 mylist/68640421 次
sm38993755ヴェルトマー城の最奥、玉座の間。激しい攻防の末にセリスがマンフロイを倒した。袈裟斬りにされた亡骸の前でセリスは肩で大きく息をしていた。「よくやった、セリス」レヴィンがねぎらいの言葉をかける。レヴィン自身もマンフロイに何か思うところがあるのか一瞥しただけで踵を返す。「これでユリアの暗黒魔法も解けるだろう。だがユリアを説得できるのはお前だけだ。ユリウスとユリア……父親は違うとは言え兄妹であるお前にしかできないことだ。急ぐぞ」セリスもうなずいて出て行こうとする。だが琴葉姉妹はその時何かがかすかに動く気配を感じた。この感覚はずいぶん久しぶりだ。かつて呪いの屋敷で異形の者たちと剣を交えた頃によく感じたもの。――殺気だ。葵と茜が振り向いて剣を振るうのは同時だった。二振りの銀閃が奔る。死んだはずのマンフロイが背を向けたセリスに放った暗黒魔法を葵が切り裂き、茜の剣がマンフロイの首と胴体に別れを告げさせた。セリスとレヴィンが気付いて振り返った時にはもうすべてが終わっていた。琴葉姉妹は足元に転がってきたマンフロイの表情が驚愕から諦観に変わるのを見た。
「残念だったね。ぎんのけんは幽霊だろうと斬るんだよ」
「死んだふりは悪の常套手段や。うちらが敵地で油断するとでも思ったか」
「……初めて見た時からわしの計画が阻むとしたらお主ら二人じゃと気付いておったわ。わしは……間違っていなかった……」そう言い残してマンフロイの死体は消えた。煙が消えた後の様に最初から何もなかったような錯覚さえ覚える。「……マンフロイは死んでなかったのか」セリスは呟いた。「ありがとう二人とも。ぼくが至らないばかりに」「もう済んだことなんやからくよくよしとらんでさっさとユリアを迎えに行くでセリスお兄ちゃん。兄と姉ってのは妹を迎えに行ってやるもんなんやからな!」「ありがとうアカネ。アオイも……」「ふふっ、ユリアちゃんに会ったらクッキーたくさん食べてもらおうねッ!」茜と葵に背中を叩かれながらセリスは城を後にしたのだった。
クッキーを口に詰め込まれるユリアはいなかったと思うので忘れてください。