先人たちはこのような言葉を残している。
──この手のシャニマス動画を投稿するときは投コメに怪文書を記せ。
そしていよいよそのバトンが私に手渡される番が来る。
しかしこのバトンを受け取る資格が私にあるのか、古生代から疑問であった。
なぜなら私はにちかPでなければシャニマスPでもなければアイマスPですらない。ついでに文章力もない。
先人たちのような、アイドルとともに歩んでいなければ記せない文書を記すなど、不可能であることは明白だ。
苦悩していた、まさにその時だった──
「・・・何難しい顔してるんですかー?」
にちか!?なぜ七草にちかがここに・・・私はあなたのプロデューサーじゃあありませんよ!?
『──ひ、人違いじゃあありませんか?』
咄嗟にありきたりな返事が口から出たが、それでもにちかはこちらの顔をまじまじと見つめてくる──
その一方で私も不思議と彼女から視線を逸らせなかった。
顔がいいから?いい匂いがするから?それともこれがアイドルの力なのか?
一瞬の出来事が永遠のように感じられる──
しかし、この時間の幕切れは呆気なかった。急ににちかが顔を上げたかと思いきや、私の背後を回って走り去っていくのだった。
私の顔は無意識ににちかを追いかけようとしていた。しかしそれは叶わなかった。
背後を回るのに合わせて顔を向き直す瞬間の、にちかが視界から消えるほんのわずかな間に、その姿は見えなくなっていた。
私は狐につままれたような気分だった。アイドルが見ず知らずの人間をまじまじと見つめ、忽然と姿を消す?──夢か?幻か?今になっても説明がつかない。
誰かに話しても絶対に信じてもらえないだろう・・・この体験は胸にしまっておこう。
心機一転、私は先人たちのバトンを受け取るか再考し始めた──が、結論はあっさり出た。今まで悩んでいたことが馬鹿馬鹿しくなるほどに。
その原因が今しがたの出会いであることに疑念の余地はないだろう。
私はアイマスが好きだ。しかしそれはプロデューサーとしてではない。言わば、一人の追っかけとしてだ。
プロデューサーになったら持てない視点を持ち続けていたい──これは私がアイマス動画を初めて投稿した時から、そして、これからも変わらない信念なのだ。
ニコマスよ、今日もありがとう。
いよいよ投稿当日、先人たちが怪文書を記すか判断を迫る。
もちろん決心はついている。答えは【否】だ。
このバトンは私が受け取らずとも、必ず次のプロデューサーのもとへ届くであろう。
そして私は投コメにこうとだけ記すことにした。
“初ミームです。”