「ウマ娘の深淵について、ひとつ面白い仮説を思いついたんだ。聞いてくれるかいトレーナー君」
お茶菓子のにんじんカップケーキを平らげた直後、タキオンは唐突にそう切り出した。
「ウマ娘という種族には未だ謎が多い。有史以前の壁画にすでにウマ娘の姿が描かれているのは有名な話だが、それ以前にウマ娘と呼ばれる種族がどのような進化を遂げてきたか――ウマ娘の種の起源がどこにあるのかは明らかにされていない。
ヒトとウマ娘は途中で異なる進化を果たしただけで、元は同じ種族だったのか。それとも全く異なる生物が偶然にも似通った形に進化したのか。興味深い命題だとは思わないかい?
もし異なる生物が『より優れた形』として同じような姿に進化する道を選んだのだとしたら、そのきっかけは一体何だったのか。環境の変化か、あるいは突然変異か。これに関してはさまざまな学説が唱えられているが――私は、やはり何か進化を促す要因があったのではないかと考えている。
例えば、当時の人類ではとても理解の及ばなかった強大にして未知なる存在――『神』と形容されるような何か、とかね。
その可能性を見出した時、私はすべてを理解した。
なぜトレーナー君は私の白衣にやけに固執するのか? なぜ体が緑色に発光すると怯えるのか?
なぜブライアン君のボロボロのコートを見て目を輝かせるのか? なぜドトウ君の瞳に著しく興味を示すのか?
そう――その答えはすべて、トレーナー君の書架にあったのさ。灯台下暗しというのはまさにこの事だ」
紅茶で潤した喉と舌をフル回転させて熱弁するタキオンの瞳は怪しげにきらめいていた。
……まさか読んだのか。本棚に置いていた漫画を。
「この間経過観察に行った時に少しね。漫画というものは初めて読んだが、なかなか悪くない。
娯楽作品を鑑賞した後の精神状態の変化についてデータを取ってみるのもよさそうだ。
ひとまずは君の好きそうな作品で試すとしよう。漫画『デビルマン』、映画『DEVILMAN』、アニメ『DEVILMAN crybaby』――全部見るとまあそれなりの時間になるだろうが、付き合ってくれるね?」
その後、休日を丸一日費やして肉体的にも精神的にもハードな実験に付き合わされたのであった……
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