「おい!明日は園田が学校に来るらしいぞ!!」
その知らせは、教室中の男子の話題をかっさらうのに十分すぎるものだった。
「マジかよ....。」
「二週間ぶりとかだよな....?」
「明日の体育でいいとこ見せるチャンスじゃねえか.....!」
授業の合間の10分休み、そのほとんどが園田の話題で構成されていた。
「じゃあ、明日はあれだな.....!」
「ああ、あれだな」
うちのクラスの男子にはある取り決めがあった。
それは、「園田と同じチョコレートを持っていた者が、今日一日、園田と話せる権利を持つ」ということ。
「園田智代子と同級生という特権に甘んじてはいけない」という戒めがクラスの男子の中で共有されている中、我々に唯一認められている権利だ。
チョコアイドルをセールスポイントとしている園田は、学校内でもそのキャラクターを貫いており、学校にはいつもチョコ菓子を持参している。
それと同じ物を持っている男子は今日一日の幸運を掴めるラッキーボーイなのである。
甘いものが好きじゃないやつも、この時だけは自分に噓をつく。
こうして男子は、それぞれの想いを胸に帰路に就くのだった。
そして迎えた運命の日。
教室中の男子供の視線が教室のドアに集まる。
ガラガラ.....ッ
「みんな!おはよー!」
園田の声だ。
教室中の空気が一気に変わる。
実は、俺はこの時、禁じ手を犯していた。
それは、禁断の3個買い。
男子の間では1個だけの勝負という暗黙のルールがあった。
だが、ルールなど関係ない。俺はただ園田と話したいだけだ。
しかも、その3個は選りすぐりの精鋭たちだ。
定番かつ王道、更に園田の性格を考え、みんなで分け合えることの可能なポッキー。
ここ最近の園田の持参したチョコ菓子の中で最も多いチョコパイ。
そして、期間限定のパイの実アップルパイ味。
準備に余念はない。さあこい!園田!
女子生徒が園田に話しかける。
「ちょこちゃん、今日はなんかお菓子持ってきた?」
そして後に続いた園田はこう放つ。
「あ、今はダイエット中だからお菓子我慢してるんだ」
教室中の男子の沈黙の中、始業開始を告げるチャイムだけが虚しく響いた。