それは、あるクリスマスの夜の出来事でした。
「あ〜、おっきいクマちゃんのぬいぐるみだ〜! パパ、ママ、ありがとう〜♡」
「この子ユアクマちゃんっていうの〜? それじゃユアクマちゃん、ひななといっしょにおままごとしてあそぼ〜♡」
「は〜い、ユアクマちゃんあ〜んして〜♡ もぐ、もぐ、もぐ…おいしいでしょ〜?」
まだ世の中を多くを知らない無垢な少女は、1つのクマのぬいぐるみに出会いました。もこもこで、ふわふわで、あたたかい。可愛らしいそんなぬいぐるみを、少女は大層気に入りました。
「むにゃ…。ユアクマちゃんおやすみ…」
聖なる夜から、一夜明けた翌日。布団の中でスヤスヤ眠る少女の肩を、ユサユサと揺する小さな姿がありました。
「ん…。だれ〜…?」
「…あ〜、ユアクマちゃんだったんだ〜。ユアクマちゃんおはよ〜…」
「…! ママ〜、パパ〜! ユアクマちゃんうごいてる〜!」
驚いて両親の元に駆け寄る少女。ぬいぐるみは、まるで意志を持っているかようにその後を追いかけました。
少女の両親もまた、買ってきたぬいぐるみが動いている事に驚いているようでした。しかし3人はこの事実を優しく受け入れ、そのぬいぐるみは少女の友達として、また新たな家族の一員として迎えてもらう事になりました。
「ユアクマちゃん、いっしょにあさごはんたべよ〜♡」
少女は新しく出来た友達を連れて、横並びでテーブルに着きます。朝ご飯はほかほかのシチュー、美味しそうな匂いを立てています。
しかし新しい友達は、シチューという食べ物を知らないようです。これは何だろう? という表情を浮かべています。新しい友達は、シチューの中の具材に手を入れようとします。
「あ〜! ユアクマちゃん、それはあちち〜だからあぶないよ〜!」
少女は、木のスプーンを新しい友達の手に取らせます。
「こうやってスプーンですくって…ふー、ふーってしてたべるんだよ〜」
新しい友達は、言われた通りにやってみる事にしました。スプーンでシチューをすくい、息で2、3度冷まし、そのまま口に運びました。
新しい友達は、初めて食べるシチューに感激したようです。
「おいしい〜? よかったね〜、ママもうれしいって〜♡」
あっという間に目の前のシチューを平らげると、新しい友達は2回程のおかわりをし、その後満足そうにソファで休んでいました。
新しい友達は、シチューという美味しい食べ物がある事を知ったのです。
それからユアクマは、ご飯にシチューが出る日をとても楽しみにしていました。誕生日に、記念日に、お祝いの日に。美味しくて思い出の詰まったあのシチューを、雛菜の両親は、そして雛菜は、いつも作ってくれました。