近くを通ったついでに新年ご挨拶。社長の事務所に顔を出してみた。
すると、なんということだろう! かのせなさんがすっげぇ真面目にレッスンしているではないか!
見守る社長もどことなく困惑気味だ。
社長、今年もよろしくお願いします。こちらこそお手柔らかに、と挨拶を済ませたのち。
「どう思う」
ざっくり切り出してきた。無論、かのせなさんのことだろう。
や、真剣なのはいいことじゃないですか。明日は大雪かもですが。
「!! そうか! ついにかのせなさんがその気になってくれたのか!
見える見えるぞ輝くアイドルデビューへの道が!」
「やりませんのぜ」
一蹴である。社長がっくりしおしおである。
どうやら反応を見るにこれはいつものことらしい。
だとすればなんなのだろう、この青天の霹靂は。
ほんの数週間前までかのせなさんはラボに遊びに来ては、モチを食べてゲームしてモチを食べて炬燵でゴロゴロして
みかんを食べてテレビを見てモチを食べてモチを食べてモチを食べて……ああなるほど。
そういえばウエアがいつもよりゆったりズボン。加えて、肌にややハリがなく、かさつきが見受けられる。
恐ろしく些細な変化、半漁でなきゃ見逃しちゃうね。つまりこれは――
「や! いやいやいや! 違いますから! これはですねこんな緩い感じだと普段節制してるアイドルちゃんたちに申し訳ないというか示しがつかないというかこのままだと並んだ時に後ろめたいというかみっともないというか一応かのせなさんはお手伝いの身でありプロダクションの沽券にかかわるわけで」
めっちゃ早口で自白ありがとう。
気持ちは分かるが急な減量は心身ともに良くない。成長期ならなおのこと。
社長とて同じ気持ちだろう。プロダクションは年頃の娘さんを何人も預かる身。
そのお手伝いさんが無茶ダイエットをすれば事務所の管理体制も疑われ、他の子にも悪影響を及ぼしかねない。
「うう…それはまぁ…はい…」
よって、我ら大人二人は今からかのせなさんをファミレスへと連行する。たんとおあがり。
「まままままってまって! せめて一曲! 一曲きっちり演舞やろう!
ほら社長! 機材スタンバイして! かのせなさんの貴重なレッスンシーンですのぜ!?」