桃子が俺のことをお兄ちゃんって呼ぶたびに、俺の中の兄である部分が疼く。
俺が幼い頃恐らく桃子と会っていたのだろう、どこか懐かしく、寂しい、そんな感情が湧きあがる。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
ああそんな目で俺を見ないでくれ桃子。
俺は君にお兄ちゃんと呼ばれていいような男じゃないんだ。
内に秘めた淫獣が出ないうちに、俺の中の兄の部分でそれを殺すしかない。
桃子はまだ11歳、どんなに経験を積んでいても子供らしい部分が見える。
それがいい、というのはあるが彼女は恐らく拒むだろう。
彼女は自らの幼い部分を殺している、その反動がきっと出ているのだろう。
「お兄ちゃん、どうしたの?桃子先行くよ?」
ああ、先に行っててくれ。
その言葉が口から出ない、なぜか出ない。
嗚呼どうして俺の口は肝心なときに動かないんだろうか、口の中がカラカラになり、喉から声を出そうとしてもヒリヒリと痛む。
俺は肝心な時に役に立たない、桃子はこんなにも俺の事を気にかけてくれているのにも情けない。
彼女のことを子供っぽい部分があると言っておきながら自分がこんな体たらくである。
こんな自分が桃子のプロデューサーなんかでいいんだろうか、いやよくない。
自分よりももっとしっかりとしたプロデューサーが相応しい。
そうだ、帰ったら早速社長に掛け合ってみよう。
だが自らの責務を逃げ出す俺を桃子はどう思うだろうか。
間違いなく私のことを蔑むだろう、はたまた失望するか、もしかしたら心配してくれるかもしれない。
だがこんなプロデューサーは間違いなく駄目だろう。
ああ桃子、俺のことは気にしないで先に行ってくれ。
俺もきっといつか追いつくだろう。
その時はもっとお兄ちゃんらしく、振舞おうじゃないか。
もし俺のことをまたプロデューサーと認めてくれるなら、俺のことをお兄ちゃんと、もう一度呼んでくれ。
駄目な俺を許してくれ、今はまだ弱いままなんだ、だから強くならなくちゃいけないんだ。
こんな仕事しか取ってこれない俺のことを恨んでくれてもいい、蔑んでくれてもいい。
だがこれが俺の精一杯だったんだ、唯一俺がつかみ取ることができた仕事だったんだ。
それが伝わったのか桃子は俺にできると微笑んでくれたよな。
桃子の可愛さも、強さも、美しさも関係ないこんな役だけど。
それでも桃子はプロとしての意識をもって取り組んでくれたよな。
あの時の桃子の背中は誰よりも力強く、美しく、最高だった。
俺はあの時お前についていこうと、お前にふさわしいプロデューサーになろうと決めたんだ。
いつかもう一度お前と仕事できる日を願うよ。