現代、人間によって演奏されている非常に退屈な雅楽。その古譜をDTMで復元したらどんな音楽がでてくるかやってみた。
三十二相 伏1089は宮内庁書陵部に所蔵されている。釈迦の容姿を表現した歌詞を雅楽の旋律に乗せて歌うもの。声明に含まれる。鎌倉時代初頭に成立したらしい。
曲は2部からなり、前者は散吟打毬楽の旋律をベースにしており、旋法はA Lydian。後者は迦陵頻 急の旋律をベースにしており、旋法はA Mixolydianである。Lydianは現在の長音階よりもう一寸明るい調、Mixolydianはもう一寸暗い調。
散吟打毬楽は伝承が途絶えていた曲だったが、藤原師長(1138-1192)が1177以降に編集した箏と琵琶の雅楽曲集(仁智要録、三五要録)に譜がある。黄鐘調忠拍子、水調忠拍子、水調楽拍子と3譜掲載されていて、この内の水調忠拍子が三十二相の譜に合う。”合う”といっても旋律が完全に一致するわけではない。まぁ聞けないことはないという程度。
迦陵頻は仏教系舞楽の林邑楽の一曲。元はD Mixolydian(壱越調)なのを完全五度上に移調してA Mixolydianとすると三十二相の後半の曲に合う。
この曲についての論文が幾つかある。旋律を五線譜に表したものもあるのだが。。。音価が一様で音楽的じゃない。
Youtubeに三十二相の動画が幾つかあるが、どれも退屈な演奏。現代の雅楽は江戸時代に儀式用にアレンジされて復興されたもので、それをさらに遅いテンポで演奏されている。古譜の4-12倍の遅さなので原曲の曲想を想像することは難しい。また現在では笙は和音を演奏しまくっているが、古譜の曲には単音しか書かれていない。調子や音取という曲には和音がしっかり書き込まれているので、通常の曲に書き込まれていないのは和音で演奏しないからではないだろうか。
フリーソフトウェアを使って作っています。
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参考文献
三十二相 宮内庁書陵部 伏1089
悔過会所用の〔大懺悔〕と〔三十二相〕廣瀬美都 1988
仁智要録 宮内庁書陵部 伏865
三五要録 宮内庁書陵部 伏931
博雅卿笛譜 富山市立図書館 山田孝雄文庫no.3828
六調子曲譜 宮内庁書陵部 伏806
鳳笙全譜 宮内庁書陵部 08-50_11-61
六調子並高麗曲譜 宮内庁書陵部 伏808
楽家録巻之十七、十八、十九、二十
平安時代の箏ー失われた伝承をめぐってー スティーヴン・G・ネルソン 2008