逃げて差す。ウマ娘として理想的なレース運びを物にし、向かうところ敵なしと思われるサイレンススズカ。しかし、トレーナーの胸には一抹の不安があった。
アグネスタキオンから指摘された、限界を超えた走りによる、自身の崩壊。完成された走りの中、不良を起こせば、間違いなくスズカは死ぬ。ケガについて調べれば調べる程、不安は募っていく。このまま走らせて良いのだろうか?いやしかし、走らせないということは、ウマ娘いやサイレンススズカを殺すということだ。
芝2000m。天皇賞秋。1枠1番。走り出したスズカに黒い影がかかる。
「ウマ娘なのか?」
黒い影はスズカに肉薄する。スズカの足を、鎖のように伸びた影が掴む。
なぜ走る?ウマ娘が走ってはいけないのか!?走るのは彼女だ。彼女は彼女のために走る。走り続けるために、君という存在は不自然なのだ。ではこの出会いはなんなんだ?
大ケヤキを抜けて第四コーナーに差し掛かる。目に見えて、スズカの速度が落ちる。沈黙がスズカの足を引っ張る。
「しかし、認めなくてはいけない。さあトレーナー、目を開いて……」
「トレーナーさん!戯言はやめてください!」
ハッと顔を上げる。
「トレーナーさん、私はレースに勝ちたい。私を導いてください!」
孤独で暗い場内に歓声が響く。マックイーン、スペ、エアグルーヴ、マチカネフクキタル!
最終直線に入ろうとするサイレンススズカに、あらん限りの大声を出す。
「スズカ!」
声援に後押しされたサイレンススズカが加速する。一旦は落とした速度を戻し、いやさらに加速させる。後続に迫っていた影をみるみる突き放し、ゴール板を駆け抜けた。
「ウマ娘は変わってゆくのね。スズカ達と同じように」
「トレーナーは本当に信じて?」
「信じるさ、ウマ娘はいつか時間さえ支配することが出来るって……。ああ、スズカ、時が見える」
翌日、部室で七色に光るトレーナーが発見され、スズカは天皇賞を逃げ切った。
あとがき:大逃げもそうかもですが、固有が最終直線指定じゃなくなったのも大きいかも。
ウマ娘:
https://www.nicovideo.jp/series/210400※前作等はシリーズからご確認ください。