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小糸がピアノを演奏する。
私はショッピングモールで、小さな小糸たちに囲まれて聞いている。
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演奏はつつがなく進んでいく。
青空の下で、小糸はたくさん練習したピアノを披露している。
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私と小糸たちだけになった旅館の通路に、美しいピアノの音だけが響く。
すぐ右隣で聞いている小糸が、身体を小さく左右に揺らし、音楽を楽しんでいる。
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男性の紙芝居の中で小糸は鍵盤を叩いている。
紙芝居なのに音が聞こえてくるようだ。
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小糸の演奏を中心にして宇宙が広がっていく。
私と小糸たちはピアノの周りを揺蕩いながら、全身で旋律を受け取る。
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事務所のテレビで小糸の演奏会が流れている。
この場所だけ時間の流れが他と違うような、幻想的な気分に浸る。
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小糸の演奏が終わりにさしかかり────最後の一音が空気に溶けた。
一呼吸置いてから、小糸は立ち上がり、観客の私たちに向き直る。
一礼してから顔を上げたその顔は…… 果たして誰だったのだろうか。
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……聞こえていたのは携帯のアラームじゃなくて、蝉の鳴き声だった。
時刻はまだ五時くらいで、エアコンが冷やしてくれた空気がまだ残っていた。
なのに、全身が汗でベタついて気持ち悪い。
全身汗だくの気持ち悪さを感じる前に、隣で寝ているお姉ちゃんが気になった。
すぅすぅと規則正しく、小さな寝息を立てるお姉ちゃん。
何気なしにほっぺたに触れる。もちもちで柔らかく、暖かい。さわり心地がよくてつい、お姉ちゃんが苦しそうな寝息を立てるまでいじり続けてしまった。
手を離したらすぐに眉間のしわが取れていくのを見て、なんだか可笑しくなってしまう。それと同時に、起きたときから感じていた身体の強張りもほぐれていった気がした。
さすが、私の自慢のお姉ちゃん。
そんな尊敬できる相手を起こさぬように気を遣いながらそっとベッドから立ち上がる。
心が晴れやかな今、次は身体をさっぱりさせたい。シャワーを浴びるため、部屋のドアノブに手をかけた。
「ぴゃあ?」
気配を感じて振り返る。
寝ているお姉ちゃんとは別に、小さいお姉ちゃんがわらっていた。