夢から醒めた時、私は毛布の中で息苦しさを覚えた。
見つけられぬ本心と、矛盾ばかりを唱える有象無象。
きっと地獄に落ちた。
原因はよなかに食べた花の毒だろう。
見知らぬ客人は居間で写真を眺めている。
「あなたは誰だ?なにが楽しくてこんなところにいる?」
彼は現実とは、形なきものだと教えてくれた。
私はもう一度毛布にうずくまろうとした。
それは人肌のように柔らかく、飼い猫のように慰めてくれる。
しかし、それは存在せぬ物質の一つであった。
科学者も見つけられぬであろう、大発見だ。
私だけが知っている、特別な終着点。
マグカップの中にはぬるくなったココアが「君は腹黒い人だ」と
蔑んだ眼をしていた。
意味が分からない。
私にはなにができたのだろう。
死んだことはないが、心臓は止まっていた。
食べかけの朝食がどこかへ持っていかれる。
不思議と愛されていたはずの記憶が、誰のものかわからぬ記憶が。
セーブデータのように思い出されるのだ。
走馬灯はオーロラのように美しく、濁流のように汚れていた。
呼吸器は青信号を赤に変える。
留守電が鳴った。
発信元はコックピット。
助けを呼ぼうとしてみた。
誰もくるはずがない。
なぜなら、白昼夢。
昼と書いているのに、今は朝である。
何匹もの鳥が鳴いている。
払いのけるには幾らか勿体なかった。
深い赤色のガラス窓を愛していた。
手の届かない人物がすぐ横にいる。
私は教科書を開き、メモを取ったはずだった。
「堕ちていく」
それは、けして人の目に触れることはなく、
これらの世界とともに海に流れていくことだろう。
さようならなどという言葉は、釣り合わないと思った。
また60km先に、挨拶をしに行かないと。
また会おう。
空想に立ち尽くすお前たちは、私の、何倍も、立派であった。
白昼夢
白昼夢
白昼夢