────今日はライブオーディションの日だ。
ルカが「なんでもいいからオーディションがしたい」と言うので、日付が近いものにエントリーした。
私は舞台袖でひとり、ルカを待っていた。
「ちゃんと着れたよ、マネージャー」
「そうみたいだね」
いつもの衣装を着たルカが舞台袖に現れた。
あれから、ルカは失踪する前のように話しかけてくれる。なので私もできる限りいつもと変わらない態度を装って返事をする。
「あんたには感謝してるんだ」
突然の言葉に、私は驚いて顔を上げた。
私を見上げていたルカと目が合う。
「ルカ、それは────」
「嘘じゃない。あんたのおかげで、私は衣装を着て、ここに立ってる」
違う、違うんだ。ルカを「カミサマ」にしてしまったのは私だ。だから感謝される謂れなんて──。
「──なぁ、私はどうしたらいい?」
何度も聞いてきたルカの問い。祈るような、縋るような、弱々しかったはずの問いかけ。
それに対して私は、いつだって同じように返してきた。大雑把で曖昧な答えを返すだけだった。
しかし今日は逆だ。私が祈るのだ。
私たちの分まで、嘆いて、怒って、哀しんで苦しむようにと。
一呼吸だけ天を見上げ間を置いて、またすぐルカと向かい合う。
「思ったようにやりなさい。壊したければ壊せばいい。勝ちたければ────」
「────勝ち取るよ」
ルカは私の言葉を待たずに背を向け、ステージへと足を進める。
舞台では、ルカを呼ぶための前振りが始まっている。
「あんたが作った『斑鳩ルカ』で」
階段を数段上がり、私と目線が重なるタイミングで、堂々と宣言してみせた。
ルカはまたすぐステージへ向かって歩き出す。
曲が始まり、ライブオーディションがスタートした。
私は舞台袖からずっと斑鳩ルカだけを見ていた。
観客も、審査員も、もちろん舞台袖も何も気にせずに歌うルカを。
嘆きを訴えるように、怒りに突き動かされるように、哀しみを吐き出すように踊るルカを。
すべてを吐き出した後に、わずかだけ彼女の希望を見せるルカの笑顔を。
私は舞台袖からずっと、斑鳩ルカだけを見ていた。
ライブオーディションは、ルカが優勝した。
P.S.音量注意
参加させていただいた合作 →
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