紡乃世詞音と恋人の関係にあったのは、高校生の時だった。始まりは、私の、告白から。愛を伝える言葉に、彼女は、一瞬驚いたような表情になり、直ぐに破顔して了承してくれた。それからの蜜月は筆舌に尽くしがたい、おそらく私の人生の中でも一二を争うくらい幸せな時間であった。手をつなぎ、キスをして、そして……
しかし、幸せな時間はやがて終わりが来るもの。きっかけは大学進学であった。私と紡乃世の進学希望先はそれぞれ離れた地方へ進むものであった。それでも、連絡を取り合ったり、会おうとはしていた。しかし、花も盛りの大学生に、私たちの距離は遠すぎた。人間同士の恋愛とは、結局のところ、肌の触れ合いによって担保されているものなのだろう。抱きしめないで囁きあう愛の言葉のなんと空虚なことよ。終わりにしようと言い出したのはどちらからだったか。二回生になるころには私たちの関係は終わりを迎えていた。
だから。
社会人になって三年目の夏。帰郷した私は目を疑った。私の就職した先はお世辞にも良い社風とは言えなく。私は店前の街路樹に除草剤を撒く作業に嫌気がさしていた。それで、実家にいても会社のことを思い出して嫌な気分になって。夜の風に身を冷やそうと、外に出ていた。その、深夜の散歩の最中である。
「やあ、久しぶり」
そう声を掛けてきたのは紡乃世だった。
彼女は、学生の頃と変わらず、いや、より綺麗になっていて……
【使用楽曲】
Three_Keys_(Freestyle_Rap_Beat_No.02) / Khaim
See You Again / GANO
Night_Light2 / GANO
空ノ月、海ノ月 feat.初音ミクDark【オリジナル】 / ツカダタカシゲ
月の祈り-リマスタリング- / 田中芳典