「621、またグリッド012に行くのか」
『うん。だってほら、ログハントが終わってない』
ウォルターにそう言いながら画面にログを表示する。確かにNOT COMPLETEと映っている。この情報は嘘ではないが、本当でもない。オールマインドに話を持ちかけたら、「あなたがそう望むのであれば」と言われ、以来グリッド012に通うたびデータの改竄をお願いしている。代わりにアリーナでの戦闘ログをもっと多く提出するように言われたが。正直なところ、アリーナでの戦闘は好きではない。データ相手でも何かを壊すということは避けたいからだ。データでないものを沢山殺している自分が言うのもなんだが、好きではないものはそうなのだから仕方がない。
「621、お前は再手術が終わったばかりだ。あまり無理をするな」
『ありがとう。今日はできるだけ早く帰る』
再手術が終わったから、グリッド012に行きたいのだ。
手すりにすがりながらキャットウォークを歩き愛機に乗り込む。システムはオールグリーン。流石はエアだと考えた途端、脳内に彼女の声がする。今日もあの異常者に会いに行くのか、と。次に彼を異常者と言ったら二度と交信に返事しないと脳内で返す。
確かに、彼はやってはならないことをやった。背信行為に窃盗、許されるものではない。だからカーラは彼を排除したいと思い、私に依頼を出した。そして私はその依頼を受け、彼を殺した。と、いうことになっている。
『ウォルター。行ってくるね』
◇
グリッド012の入り口から既にアサルトブーストをかけている。巡航型ブースターなのに最奥に到達する直前でいつもエネルギー切れを起こす。コーラルジェネレーターを使えばいいのかもしれないが、如何せんあれは重い。軽量機を駆る私としては、重量はいつも気にかけていることだ。
そんな事を考えていると、いつもの場所に着いていた。愛機をうつ伏せに倒れ込ませ、コックピットハッチを開ける。ハッチに据え付けてある杖を手に取り半ば這うようにして外へ出た。上を見上げる。レールキャノンはもう無くなっている。そのずっと奥から、影が降りる。2kmは離れているだろうに、その姿は凛としていた。AC名ミルクトゥース、彼の愛機だ。なぜ破壊されたはずなのに残っているのか。簡単だ。私が彼に買い与えたからだ。
頬が緩むのを抑えられない。早く彼に会いたい。言葉を交わしたい。そんな思いで体を動かし、ほんの少しではあるが前に進む。私がそんなことをしているうちに彼のACはすぐそばに来ていた。やはり、ACにとって2kmなどあっという間なのだ。
「ブ、ルー、トゥ」
『よくぞおいでくださいました。……ん?』
通信機から彼の困惑文字数