架空アニソン祭2024参加曲です!
ワレカビンと申します〇
あらすじ
海沿いの街に暮らすイア夫は、数年前に病気で妻・カフ美を亡くしてしまい、生きる意味を見つけられずにいた。ひょんな事から、天国のカフ美より「私は本当は洋食が食べたかったのだ」と伝えられる。和食ばかりを作らせていた妻からまさかのカミングアウト。イア夫はせめての罪滅ぼしとして西洋料理にチャレンジしてみる事に!
慣れない手つきで西洋料理にトライする、コメディお料理ライトノベルがついにアニメ化!!
第一話
イア夫は耳を澄ませていた。カフ美の声が聞こえた気がしたのだ。波が静かに寄せては返し、彼の足を悪戯にくすぐっていた。
妻はあまり口数が多い方では無かったが、全くの無口という訳でも無かった。話す言葉の一つ一つに温かい陽だまりのようなものを持っていて、彼女がきちんとそれを選択していると分かった。私がそれを失った時、これから先、本当の喜びを得る事はもう無いという事を知った。
海沿いの小さな街、当然、私達の食事の殆どが魚料理となっていた。私は和食が好きだったので、妻には、いつも和食を作るよう話していた。刺身、煮付、丼に寿司。やはり魚は和食が一番だと妻に笑顔で話しかけた。妻はそうですねと笑顔で返したが、その顔はどこか静かな悲しみを孕んでいた。
私は耳を澄ませていた。妻の声が聞こえた気がしたのだ。
波の音が騒がしく感じる夜だった。
私は総ての感覚を耳に集め、水面に浮かぶ月を掬う様に目を閉じた。
………たかった…
カフ美だ…カフ美の声だ…やはり私に話しかけていたのだ。その瞬間、私は空を仰いだ。
カフ美よ!!もう一度だけで良いからその声を聞かせておくれ、願ったその時だった。
………洋食が食べたかった……
カフ美ーーー!
カフ美ーーーー!!
本当は洋食が食べたかったのか!!!
毎日和食を用意させ、洋食を作ろうものなら口汚く罵った私を許してくれー!
私はその時から寝る間も惜しんでYouTubeを見始めた。YouTubeはめちゃ便利で、あらゆる魚を用いた洋食のレシピがそこにはあった(レシピ本は何故か肌に合わなかった。目が滑ってしまうのだ)
台所に立った私は小さく息を吸い込み、目を瞑り、静かにカフ美の事を想った。月明かりがまな板を照らし、暗闇は新しく購入したオリーブオイルを物珍しそうにしげしげと眺めていた。作ろう、アクアパッツァを。私は命を繋ぐこの料理という行為に感謝していた。決して手離してはならないもの。私と妻を繋ぐ最後の対話。
私は目を開き、その暗さに驚いて、慌てて台所の電気を付けた。