『近所に住んでた葵お姉さんと夏祭りに行った事があるんですよ。
私がまだ中学生だった頃の話なんですけどね。
葵さんは来年から大学生で、都内に進学するから祭りに行けるのも今年が最後って言うのをどこかで聞いたので、勇気を出して「今度の祭りのカラオケ大会に参加するので、見に来てください」って誘ったんです。
自信は結構あったんですよ、2カ月くらい前から練習してたし。
だって言うのに葵さんと来たら「君がwwwカラオケ大会ってwww」って爆笑するもんだから、こっちもカチンと来て売り言葉に買い言葉で最終的に”優勝したら葵さんが何か奢る””出来なかったら私が奢る”って言う話になりました。
冷静になって考えると、いくらなんでも優勝は厳しいかなぁと思いつつ、ここで優勝したら葵さんに一目置かれるかもって事で俄然気合が入ったのを覚えています。
いざ本番、地元の祭りなんて小規模なもんでステージは適当に嵩上げした場所にスピーカーを設置しただけの簡素なやつ。観客は参加者の家族とか暇なお祖父ちゃんお祖母ちゃんくらいでした。
ほぼ全員顔見知りなので緊張も何もなくて、初めの方は余裕綽々で歌ってたんですけど、歌ってる途中で葵さんが目に入って。
(本当に来てくれたんだ、今見られてるなぁ)って思ったらなんか声上ずっちゃって。
(あっヤベッ)って思ったら今度は音外すわ声伸びないわ。
そこからはもうなんか自分でも(何やってるんだろう)って感じになっちゃって、最後の方はなんか恥ずかしさや惨めさで勝手に涙が流れてくるしで結果は散々でした。
終わった後、境内の裏でいじけてたら「あっ、いたいた」とか言いながら葵さんが来て。
正直逃げたかったんですけど、なんかそれをやったら完全に負けだと思って「なんですか…笑いにでも来たんですか…」って八つ当たり気味に言ったんですよね。
そしたら「ハイこれ景品」とか言って綿菓子差し出してきたんです。
なんのことか理解できずに「は…?」って顔をしてたら口に突っ込まれて、「頑張ったねぇ~」って頭ガシガシされたので、子供扱いされてるのが嫌で全力で抵抗しました。
その後は私が落ち着いてから出店を回って、花火を見てお別れになったんですけど、その時に「え?私普通にお祭りの時は帰って来るけど?」とか平気な顔して言うもんだから、「はぁ~~~~~????」って叫びましたね。人生で一番デカい声出したかもしれません。
高校に上がった今でも葵さんには勝ててないですね…。
まぁ葵さんは私の事を妹みたいに思って舐めてる節がありますから、私の方が先に大人になって、絶対見返してやりますよ。』と言う実話をもとに構成されています。
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