約130人の死者を出したパリの同時多発テロから一週間が過ぎた。今回はレストランやコンサート会場での銃乱射やサッカー・スタジアムでの爆発など、その無差別性に衝撃を受けた人も多かったはずだ。
ネット上ではフェイスブックのアイコンにトリコロールを彩るなど、フランスとの連帯を表明する人が多く見られた一方で、先進国側がこれまでにはるかに多くのイスラム教徒を殺害してきた歴史を指摘し、フランス側の犠牲を過大に取り上げることへの反発を表明する人も見られた。
パリのテロ事件に対する反応は様々だが、二つだけはっきりしていることがある。それは、まず一つ目が、テロに対する先進国側の反応はほぼ例外なく、テロの首謀者側が期待したものとなること。そして二つ目が、それが十分にわかっていても、先進国側は報復や過剰反応を避けることができない宿命にあるということだ。
今回のテロに衝撃を受けたフランスを含む先進国側が、テロ対策を理由に人々の国境間の移動に制約を設けることも、国内のイスラム系住民への取り締まりを強化することも、さらにはISILに対する空爆を拡大することも、まさに今回のテロの首謀者たちが期待していた反応だった。特にイスラム国は、アメリカをはじめとする先進国を戦争に引き込むために、あえて人質の斬首処刑シーンをネット上に公開して見せるなど、常に緊張のエスカレーションを狙った行動をとってきた。大国との緊張のエスカレーションによって、自分たちの存在に対する認知度が上がることを期待しての行動だと考えられている。
そして、それが痛いほどわかっていても、先進国の政府はこれだけの犠牲を出し、恐怖が蔓延する事態を招いたテロの首謀者たちに対し、国民の応報感情に応えるために何らかの報復をしなければならない立場に置かれている。
早い話が、これは最初からテロリスト側に圧倒的に有利な戦いなのだ。
しかし、空爆の強化やテロリストの取り締まりの強化をいくら行っても、問題の本質的な解決にならないことは明らかだ。なぜならば、テロの根幹にはそれを生み出す土壌があり、その土壌を手当てしなければ、仮に激しい空爆によってISILを殲滅することができたとしても、どの土壌から次のテロリストが生まれてくることは必至だし、次に出てくるテロリストはより暴力性や残忍性を増したものになる可能性が高い。・・・・
21世紀がテロの世紀となることはもはや避けられそうにない。しかし、そのテロにわれわれがどう対応するかによって、この世紀が単なるテロの世紀となるか、テロの挑戦を受けた文明がテロを打ち負かした世紀となるかが変わってくる。
衝撃的なテロ事件を受けて、今、われわれが考えておかなければならないことは何かを、ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が議論した。