新型コロナウイルス感染症に対する緊急事態宣言の発令が続く中、国会では検察幹部の定年延長を可能にする法案の審議が山場を迎えている。
なぜ今この時期にこのような法案を急いで通さなければならないのかについては誰もが首を傾げるところだが、与党は来週にも委員会通過を強行する構えを崩していない。
与党が法案可決を急ぐ理由として、一部で安倍政権の守護神と目される黒川弘務東京高検検事長の定年が迫っているという事情を指摘する向きもあるようだが、仮にこの法案が可決しても施行は2022年4月となっているため、今年8月の黒川氏の定年には直接影響しない。また、この法案が通れば検事総長の定年が現在の65歳から68歳に延長が可能になることから、8月の定年前に黒川氏が検事総長に就任した場合、5年にわたり検事総長の座に君臨できることになり、それが与党にとっては好都合になるとの指摘もあるが、実際は黒川氏は改正法が施行される前の2022年2月に65歳の誕生日を迎え定年退職しなければならないため、実際にはこの法律で黒川氏が長期にわたり検事総長の座にとどまることができるような建て付けにはなっていない。
この改正案が、実は検察定年延長法案でも黒川法案でもないことには留意する必要がある。そもそもこの法改正の有無にかかわらず、検察幹部の人事権は元々内閣が握っている。この法案のもっとも重大な問題点は、内閣の恣意的な運用によって検察幹部の定年3年延びたり延びなかったりするところにある。政権に気に入られた検察官は定年が延び、その分キャリアを積み上げることができる。それはより高い地位であり、大幅な退職金の積み増しであり、天下り先のランクアップでもある。また、この裁量を手にした内閣は、定年間際の検察官を一本釣りして、政権に忠誠を果たすことを条件に定年を延長した上で、破格の幹部職に据えることもできる。
そして何よりもこの法案が通れば、検察の独立性の象徴と言っても過言ではない認証職(天皇の認証を受ける地位)の検事総長の定年延長まで、内閣が自由に操作できるようになってしまう。法律的には検事総長の人事権は内閣に帰属するが、次の検事総長は現職の検事総長が指名するのが慣習として長らく守られてきた。場合によっては内閣総理大臣であっても捜査しなければならない立場にある検察のトップに、内閣の都合のいい人物を据えられるようなことがあってはならないからだ。しかし、内閣によって検事総長の定年が延びたり延びなかったりすることになれば、内閣の言うことを聞かない検事総長は簡単にお払い箱にし、言うことを聞く人物をどこかから連れてきて68歳になるまで検事総長の座に就けることが可能になってしまう。・・・
ジャーナリストの神保哲生と社会学者の宮台真司が検察庁法改正案の問題点の本質を、法律の条文にまで立ち返って議論した。
(本記事はインターネット放送局『ビデオニュース・ドットコム』の番組紹介です。詳しくは当該番組をご覧ください。)