自分らしくいられないなんて、それは人生じゃない。
アタシはそんなポリシーを持って生きている。
自分が素敵だと思ったものを集めて、宝物をたくさん集めて。
それを歌にして生きている。
「あなたの歌、よくわからないわね」
持ち込みに行った先の事務所でそんなことを言われて突っ返されたこともある。
「あーあ。アタシのことなんも知らないくせに」
そのくせ、動画投稿サイトにおいては「神ってる」「いい」「素敵」なんて、ありきたりな言葉が並んでいて、アタシのことを知ったかぶりする。
「……。アタシのこと、なんも知らないくせに」
こうやって、動画サイトやなんかをブラウジングしていると、過去のことをなんとなく思い出して思い出に浸ることもある。
そんなときは、じっとりとした思い出を振り払うためにシャワーを浴びたりなんかするのだけれど――なんだか、今日は少し疲れた。
「いーやいーや。明日から」
そう、明日から始めればいいのだ。それが許されている。
なぜなら、アタシの人生はアタシのもので、アタシの自由なのだから。
ソファーに身を沈めながら、アタシは自分の曲を歌う。それが子守歌になって、ゆっくりとアタシは眠りに落ちた。
「あの子」「なんかね」「でも」「ひとりってね」「だってさぁ」「ハブる?」「えー」「めんど」
ぼそぼそと教室の端から、声が聞こえてくる。
高校の頃からこんな感じだったなぁ、なんて、どこかアタシは思っていた。
まあ、その原因には髪の色にもあったのかもしれないけれど。
そのときアタシは、白銀に脱色した髪に淡い虹色をまだらに入れるという髪色をしていた。
そんなだから、アタシに寄り付く人ってのはすごく珍しかったし、寄り付いてきたと思ったらただの興味本位だったりした。
これくらいでへこたれるアタシなんかじゃない。こんなことくらいで壊れるくらいなら、壊れたってかまわない。この髪の色だって、これができるからこの学校を選んだくらいなんだから。
弾きものにされたって、見ないフリされたって上等よ。
独りきりでも、独りだけで生きていく。悠々と楽しく、生きていく。それもアタシの信条のひとつだ。
先生たちは心配したりなんかもする。結構、結構。でもアタシのことを考えるくらいなら、そこで仲間外れにされて泣いている子の方を見てあげてよね。
そう思いながら、泣きそうな顔をしている隣の席の生徒のことをちらっと見る。アタシに睨まれたと感じたのか、そそくさと顔を本に埋めてしまった。
「ふん」
アタシはすぐに五線譜に顔を戻して、このあとどんなコード進行にしようか、ここにどんな音を当てはめようかと考え出した。
ここにひとつ、音符を置くべきか否か。音楽は大得意なんだけれども国語やリズム体操なんかは苦手の部類に入る。
あー、どうやって言い換えたものかしら。アタシは銀色の髪をシャーペンのおしりでがしがしと掻きながら考える。
悩んでいるアタシの視界に、一枚のメモ用紙が滑り込んだ。
『アタシがいなきゃ始まんない』
そう書いてあった。
アタシはメモ用紙が滑り込んできた方向を見る。しかし、そこには難しそうな本に顔を埋めるいじめられっ子しかなかった。
「アンタ、この歌詞のことわかってくれるの?」
唐突に出てしまった問いかけに、いじめっ子はこくりと、本越しにうなずいた。
どうやって目を覚ましたかは覚えていない。
でも、たくさん、いろんな夢を見た気がする。
夢で見た明日とか、
聞いたことある音や、
アタシの歌声とか。
アタシはあの子のことを思い出して、にっこりと笑った。
まだ午前6時か。
なら、お昼ごろになったらスパゲッティでもすすりつつあの子にメッセージを送ろう。
あの日の夢を見て、たまには独りが寂しくなったよ、なんてね。
原作 金森璋「ソロシンガー」
Produce 残響レコードボカロ制作部
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