2022年8月の火災で全焼した北九州市の老舗映画館「小倉昭和館」が、再建に向けて動き始めました。「一度は諦めていた」という映画館の再建。後押ししたのは全国から寄せられた励ましのメッセージでした。
◆「この日を迎えられるとは……」
先週、北九州市小倉北区で開かれた地鎮祭。「鍬入れ」を行ったのは、小倉昭和館の館主樋口智巳さんと、先代館主の父・昭正さん、そして息子の直樹さんです。
樋口智巳さん「8月の火災の時に、この日を迎えられるとは思っておりませんでした。この更地から今、一歩です。今日が一歩。始まります」
◆祖父の代から続く「小倉昭和館」
1939年に映画館兼芝居小屋として創業した「小倉昭和館」。樋口さんは、祖父の代から続く映画館を11年前に昭正さんから引き継ぎました。シネマコンプレックスが主流となる中、2本立て上映で1000円と手ごろな値段で映画が観賞できることから、幅広い世代に愛されてきました。しかし……。83年にわたって守ってきた映画館は一瞬で炎に包まれ、ほとんどのものが焼けてしまいました。
がれきを見つめる樋口智巳さん「まだこれからのことは考えられないです……」
◆ファンから後押しされ再建を決意
多額の費用がかかるため映画館は再建できないと、「一度は諦めていた」と言う樋口さん。
そんな樋口さんの心の支えとなったのは、全国にいる「小倉昭和館」のファンから届いた励ましの言葉でした。
樋口智巳さん「皆様からいただくエールですね。『再建のため』と署名が1万7000筆を超えたんです。全都道府県から、海外から。そういう方たちが後押しをしてくださって、再建を決めたんです」
◆「大丈夫かな」「頑張らなきゃ」揺れる思い
高倉健さんなど、多くの映画人に愛されてきた小倉昭和館。2023年2月に市内の施設を借りて開いた上映会では、笑福亭鶴瓶さんからこんなメッセージをもらいました。
「何もしなければ 道にまよわないけど 何もしなければ 石になってしまう」
樋口智巳さん「私、この言葉が大好きなんですね。毎日が迷ってばっかりなんで、『大丈夫かな』という心配、『頑張らなきゃ』と思っているんですけど、『何もしなければ、私も石になってしまう。だからやらなきゃ』って」
◆かつてと同じ場所で12月に再建へ
同じ場所に12月に再建されることになった「小倉昭和館」。どんな映画館になるのでしょうか。
設計図を見せる樋口智巳さん「2スクリーンだったのが1スクリーンになり、座席も旧1号館の260席くらいあったのが、134席になりますから、半分になります。35ミリフィルムの映写機をまた入れます。(焼け跡から残った)ネオンの看板は、何らかの形で使いたい」
◆「昭和館を覚えていてください」
この日、樋口さんが訪れたのは、小倉名物の「揚子江の豚まん」。「桜を見ながら朗読を聴く」というイベントで、豚まんを振る舞うためです。
樋口智巳さん「小倉と言えば、温かいもので食べやすくておいしいもので、揚子江の豚まんに」
樋口さんは、火災で映画館がなくなった後も、市内の場所を借りてこうしたイベントを続けています。
樋口智巳さん「『昭和館を覚えていてください』というメッセージと、何より皆様にお会いしたいんですね。今の状態をご報告したい」
訪れた客「昭和館から、映画のすばらしさを教えてもらった」「(再建しても)今まで通りがいいです。楽しみにしています」
◆ファンと思い出をつなぎながら咲く花を
火災から約8か月。「小倉昭和館」は長く厳しい冬を越えて、新たな花を咲かせようとしています。
樋口智巳さん「今日はうれしいです、みなさんといっしょに桜を愛でることができて。来年の今は、どうでしょうか。ここにはいないかもしれないけれど、一緒にまた桜にちなんだことをやりましょうね。劇場がない時に、『こうやって桜を見たね』『豚まんを食べたね』と思い出しながら。その時は、笑いながら話をさせていただければ」