ついに全勝で迎えた第5レース。京都レース場、1800m。
流石に緊張しているのか、いつも元気なマヤもどこかぎこちない。
かく言う私も、調子は良くない。
もっとも、それは全勝がかかっているから、というわけではない。
「スズカさん!」
「スペちゃん……」
「一緒のレースだったんですね!私、一緒に走れてうれしいです!」
相手のチームのスペちゃん―スペシャルウィークが話しかけてきた。
「私もうれしいわ……うん……」
歯切れの悪い言い方に、スペシャルウィークは怪訝な顔をする。
だ、大丈夫ですか!?お腹痛いですか!?食べ過ぎですか!?
と、取り乱し始めてしまった。
「ちょっとフォームを変えていて……。本当なら万全の調子で臨みたいところだけど」
制御されたスピード。
現在試しているのは、より高速で走行するために、
序盤は脚を控え好位置につき、中盤から終盤の勝負所で抜け出す。
今までのような、暴走に近い大逃げと違った、勝負する走り方だ。
しかしこれがうまくいっていないのだ。
好位置につくためにスタミナを消費してしまうのか、
終盤の伸びがなくなってしまっていた。
それどころか、ズルズルと中盤から馬群に取り残され、掲示板に載ることも最近はない。
スペちゃんの得意とする、爆発的な走り方なのに―。
「ま、スペ先輩も、スズカ先輩も、オレが抜いていくんですから、関係ないっスよ!」
「(アイツも出てきているようだし……負けるわけにはいかねぇ!)」
最近調子を上げているウオッカ。
少し前までは空回りしていることが多かったけど、最近は安定してきている。
とはいえ、以前のような勝負所の強さはなくなってしまったような気がする。
私が言えたことではないけど。
「スズカさんが何に悩んでいるのか、わかりません。でもきっとスズカさんなら乗り越えられると思います!」
スペシャルウィークはそのまま行ってしまった。
頭でも理解はしている走り。
せめて今日のレースで、何か掴めたら……。
やがて総大将となるまだ小さな背中は、手本となる走りをするべくターフへ。
そしてまだ片鱗すら見せない女王と、やがて大舞台でぶつかることを、
サイレンススズカはまだ知らない。
第1レース:
sm38651925第2レース:
sm38618135第3レース:
sm38690731第4レース:
sm39044099ウマ娘:
https://www.nicovideo.jp/series/210400※前作等はシリーズからご確認ください。